「妻と私」と初夢
まだ年が明けて2日目だというのに、トムはいつもどおり出勤した。去年も一昨年も3日くらいまで休みを取っていたので、ある意味初めてのアメリカらしいお正月だ。アメリカでは一般的に1月2日から普通に仕事を始める。
私ひとりだけでも、もう少しお正月気分を味わいたい。トムを送り出した後、着替えもせずにそのままベッドルームの日当たりがいい窓側のソファに腰を下ろし、読書することにした。
気持ちの良い朝の光を浴びながら読んだのは、江藤淳氏の「妻と私」。薄い本なので1時間で読み終わった。江藤氏は著名な文学評論家だが、妻をガンで突然亡くした後、1年も経たぬうちに自殺した。この「妻と私」は、妻がガンであることを知ってから、亡くなった後までの苦悩を書いている。彼自身も実際、妻の葬儀の直後、看病による過労などが原因で死の淵をさまよっているのだ。その後も軽い脳梗塞の発作にあって、後遺症に悩んでいたという。「妻と私」は、事実上の遺書である。この本を上梓した直後、激しい雷雨の夜に、以下の遺書を残して鎌倉の自宅の浴室で手首を切った。
「心身の不自由が進み、病苦が堪え難し。去る6月10日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ。平成11年7月21日 江藤淳」
彼の自殺そのものに対して、また、著名人たちが彼の自殺について述べた言葉を自殺礼讃だとして、ある自殺防止サイトで疑問視していたが、私は自殺をすべて否定するのはどうかと思う。江藤氏はいい年した立派な大人なのだ。未知の可能性を秘めた若者の自殺というわけではないのだ。自殺を美化する気はまったくないが、自殺を選ぶ人には他人には計り知ることのできない深い思いがあるはずなのに、どうして彼らをを一方的に責めることができようか。私は江藤氏のことを実際に知らず、この本を読んだだけだが、それでも彼の遺書に対して「諒」と答えたい。
さて、みなさまの初夢はどんなものでしたか?以下は私の初夢です。
お金持ちの自営業の家で住み込みで下働き(主に子供の幼稚園の送り迎え)をしているという設定で、仕事の合間にゴルフの練習場に行ったのだが、いつまでたっても空いている打席が見付からずうろうろしている、というところで目が覚めました。
あまりいい夢ではないですね。夢占いをしたら、ろくな結果が出ないような気がします。
自宅が鎌倉と比較的我が家から近いということ、そして自殺された理由が物凄く印象に残っていたので覚えています。
確固たる意志があって、江藤さんは自殺を選んだのだろうけど、遺された人は納得出来たのかしら?(納得出来なくても亡くなった人は戻らないので、結局納得せざるを得ない気もしますが。)自分を責めている人はいないかしら?
それが気になります。
遺書にあたる本があるとは聞いていたのですが、著者名も本のタイトルも覚えてなかったので探すことが出来なかったのです(笑)
両方いっぺんに解って良かったわ♪tomoさんありがとう!
私もこの人のことを初めて知ったのはご本人の自殺のニュースです。昔からといえば昔からなのですが、ここ数年また作家の自殺が多いですよね。野沢尚、鷺沢萌。売れっ子作家が次々と自ら命を絶ちました。
江藤氏の場合は、遺書もあり、かなり明確な理由がわかっているので、一概に「よくある作家の自殺」のいうものとは一線引かれるような気がします。
奥様はとてもよく出来た方で、江藤氏は自分で電球も変えられなかったそうです。
奥様を深く愛していたから、と一言で片付けられないような深い思いを感じました。
薄い本であっという間に読めるので、ぜひ読んでみてくださいね。
友人から数年前に氏の著書『3匹の犬たち』を頂いて読んだことがあります。飼っていたのは確かコッカースパニエル。犬をひとつの人格のある存在と捉えて尊重し、彼女たち(3匹ともメス)との生活を楽しげに描写していらして、本当に犬好きなんだなあと微笑ましくなりました。まだ年若い頃なのに妙に爺くさい性格が文面に滲み出てるのもまたおかしい。
今の状況の中でtomoさんが読むにはどうかなと思わないでもないのですが、もし未読でしたら。おすすめしておきますね。
今は『妻と私』と『幼少時代』と追悼として3人の作家の文章、それと彼の年譜がおまけでくっついて1冊の文庫本になって売っていました。
これから毎日の移動時間に読むつもりです(笑)
さすが、お詳しいですね~。江藤淳が犬好きなのは、自殺のニュースを知って色々調べた時に知りました。最後まで飼っていたのはコッカーズスパニエルのメイちゃんという犬だったことが「妻と私」にも出てきました。奥様が亡くなられてから、きっと信頼できるできる人にメイちゃんは託したのではないかと予想しています。
「3匹の犬」は若い時に書いた作品なのですね。ぜひ読んでみようと思います。犬好きの人のエッセーは何でも大好きです(笑)。
>がらさん
おぉ、早いですねー。
「幼少時代」は彼の書きかけの最後の作品ですね。いろいろ付いていて、さらに文庫だなんて、とってもお得だ~(笑)。
きっとあっという間に読み終わると思いますよ。